第43回(令和7年)江口隆哉賞授賞者決定(山名たみえ氏 北村明子氏)のお知らせ

2026.06.21

第43回 江口隆哉賞授賞者は、山名たみえ氏北村明子氏の2名に決定しましたのでお知らせいたします。

北村明子

©大洞博靖

 

《受賞のことば》

この度は、栄誉ある江口隆哉賞をいただき、深く感謝申し上げます。
今回評価をしていただきました「The Long Strong Happy Death」は、私的な離別の記憶やアジアでのリサーチを出発点に、夢と現実、制度と逸脱、聖と俗、そして生と死といった、現代社会が孕むあらゆる境界の「あわい」に漂う存在の在り様を巡る思索の軌跡でした。二項対立の狭間で揺らぐ生の根源を、異文化の伝承や現地アーティストとの協働を通じて身体へと肉化し、固有の記憶を普遍的な抽象へと昇華させる試みでもありました。この探究が、ご鑑賞いただいた皆様の感性と響き合えたことを糧に、今後も生身の身体が紡ぐ表現の魅力と、その批評性を深めてまいるべく精進いたします。ありがとうございました。

 

※江口隆哉賞

わが国における現代舞踊の振興と協会の繁栄に尽力した故江口隆哉元会長の功績を記念して、1983年に制定されたもっとも権威ある現代舞踊賞です。毎年1月1日~12月31日までの期間、優れた現代舞踊作品を創作発表した作者に対し、過去の実績を加味し授与しています。

 

第43回江口隆哉賞選考委員
舞踊評論家/池野 惠、立木燁子
一般社団法人現代舞踊協会/同常務理事 加藤みや子、坂本秀子、同理事 馬場ひかり、同理事長 野坂公夫

 

一般社団法人現代舞踊協会 第43回江口隆哉賞 北村明子


「THE LONG STRONG HAPPY DEATH」撮影:大洞博靖

受賞理由
昨年度の創作作品のなかでも、授賞対象となった北村明子の『THE LONG STRONG HAPPY DEATH』は感覚的でありながら知的構成が光り、芸術的成果がフィールド・リサーチという地道な作業によって支えられている点が評価された。人間の生と死を考察する本作は、端的に言えば死への眼差しである。死へと向かう生の歩みのなかで、誰でもが遭遇する近親者との別れ。近年、北村は個人的に親族や友人とのいくつかの別れを体験し、その痛みを体験として肉化したようだ。注目したいのは、家族や共同体における具体的な記憶が身体化され、やがて抽象化されて、透明感のある爽やかな説得力を生み出しているところだろう。北村は、今回の作品においてもフィリピン、インドなどでフィールド・リサーチを重ね、現地の人々とりわけアーティストなどとの緊密な協働作業を通して土地に伝承される文化をたどり、人間の生の根源を探究する旅を重ねて創作へと行きついている。特定の文化のなかへと分け入り、北村が、身体的に、感覚的に受け止めたものが、個の体験を超えて観客の感情と響き合う。社会や制度のなかに根差す<生>の在り方を問い、ひとつの答えを提示してくれる奥の深い作品である。
略歴
北村明子(ダンサー・振付家/桜美林大学教授)早稲田大学大学院在学中の1994年に「レニ・バッソ」を創設。1995年にベルリンへ留学(文化庁派遣在外研修員)。帰国後、独自の振付理論「グリッド・システム」を確立し、代表作『finks』は世界60都市以上で上演された。米国ADFでの委託作品がベストダンス・オブ・ザ・イヤーに選出、仏オペラ『KAIRO』(原作:黒沢清)での出演など、海外への振付やオペラ演出でも多岐にわたり活躍。2010年からはリサーチとクリエイションを軸とした国際共同制作を精力的に展開。第13回日本ダンスフォーラム大賞を受賞した『土の脈』、第18回同大賞を受賞した『Echoes of Calling -rainbow after』、および2023年始動のXstream project第1弾『Soul Hunter』など、文化を越境する意欲作を次々と発表。2025年には同プロジェクト第2弾『The Long Strong Happy Death』を発表し、第20回日本ダンスフォーラム大賞を受賞。桜美林大学では、「メディアとしての身体」「身体の思考」を軸に、実践教育研究と舞台芸術の可能性を追求している。